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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)610号 決定 1985年7月16日

抗告人

岩貞奈巳

抗告人

岩貞有香子

右法定代理人親権者母

岩貞菊江

右両名代理人

森本輝男

山本寅之助

芝康司

藤井勲

山本彼一郎

泉薫

太田真美

岩橋健太郎を債権者、抗告人両名を債務者、住友生命保険相互会社を第三債務者とする債権強制執行申立事件において、東京地方裁判所が昭和五九年一〇月一五日にした債権差押え及び転付命令に対し、抗告人両名から執行抗告があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「転付命令に対する執行抗告の申立」書記載のとおりである。

二当裁判所の判断は、次のとおりである。

1  一件記録によれば、岩橋健太郎を債権者、岩貞浩を債務者とする金一〇〇〇万円の金銭消費貸借契約を内容とする昭和五八年一一月三〇日付執行証書が作成されたこと、右岩貞浩は昭和五九年八月一七日死亡し、長女抗告人奈巳、二女抗告人有香子がその法定相続人であつたこと、右債権者は抗告人両名が相続により承継した右貸金中各一六六万円を請求債権とし、抗告人両名が第三債務者住友生命保険相互会社に対して有する生命保険金請求権(以下、「本件差押債権」という。)各金一六六万円について東京地方裁判所に仮差押えの申請をして同年九月一日その旨の決定(同庁昭和五九年(ヨ)第六四二〇号)を得、同決定は債務者(抗告人両名)に対してはそのころ、第三債務者に対しては同月三日に送達されたこと、右債権者は同月二六日抗告人両名について前記執行証書につき相続による承継執行文を取得したこと、株式会社東京相互銀行は抗告人両名が亡岩貞浩の同銀行に対する求償債務金残額三〇〇万円について相続による承継をしたとして同金員中各金五〇万円を請求債権とし、前記第三債務者に対する同金額の本件差押債権につき東京地方裁判所に仮差押の申請をして同年一〇月二日その旨の決定(同庁昭和五九年(ヨ)第七〇四六号)を得、同決定は債務者に対してはそのころ、前記第三債務者に対しては同月三日に送達されたこと、前記第三債務者は右のように相次いで仮差押決定が送達されたことから、同月五日抗告人両名に対する本件差押債権につき各金一六六万五七三〇円(弁済期日の翌日から供託日までの遅延損害金を含む。)を供託したこと、右債権者は同月一一日前記仮差押請求債権に基づき本件差押債権の差押え及び転付命令の申立てをし、東京地方裁判所は同月一五日原決定をし、同決定は同月一八日前記第三債務者に送達されたこと、抗告人両名は東京家庭裁判所に被相続人岩貞浩の相続放棄の申述をし同月一九日受理されたこと、なお抗告人両名が本件抗告理由二3、4で主張する強制執行(原決定)停止決定は今日に至るも当審に提出されていないこと、以上の各事実を認めることができる。

2  そこでまず、抗告理由中前記相続放棄申述受理による相続債務の不承継を主張する点について検討すると、このような実体法上の事由については執行文付与に対する異議訴訟を提起して主張すべきであつて、本件執行抗告の理由とはなし得ないというべきであるから、右主張を採用することはできない。

3  次に民事執行法一五九条三項該当を主張する点について検討すると、なるほど前記認定の事実関係に照せば、本件転付命令が第三債務者に送達される時までに転付命令にかかる金銭債権について他の債権者(株式会社東京相互銀行)が仮差押えの執行をしたのであるから、本件転付命令は民事執行法一五九条三項により効力を生じないこととなる。しかしながら、このように同一の金銭債権について差押債権者が競合することによつて転付命令が無効となる場合、外形的に無効の転付命令が存在することになるとしても、それが無効であることは法律上明定されているうえ、債務者としては、当該差押債権がどの債権者に帰属することになるにせよ、またいかなる債権者が競合することになるにせよ、当該債権について差押えを受けているという地位に変りはないのであるから、特段の事情がない限り、右転付命令が無効であることを主張して抗告を提起することについて法律上の利益があるということはできないものと解するのが相当である。そして、右特段の事情については記録上認めることができないので、右の主張も採用することができない。

三以上の次第で、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鈴木重信 裁判官加茂紀久男 裁判官梶村太市)

転付命令に対する執行抗告の申立

抗告の趣旨

被抗告人を債権者、抗告人らを岩貞浩承継人債務者、住友生命保険相互会社を第三債務者として、昭和五九年一〇月一五日東京地方裁判所(第二一民事部裁判官中根勝士)が為した債権差押え及び転付命令(同庁昭和五九年(ル)第四七五一号、昭和五九年(ヲ)第七九七六号)は、これを取消す。

との御裁判を求める。

抗告の理由

一、被抗告人を債権者、抗告人らを債務者、住友生命保険相互会社を第三債務者として前記の債権差押え及転付命令が為された。

二、1、右差押にかかる請求債権は、昭和五八年一一月三〇日被抗告人(債権者)が昭和五九年三月三一日を弁済期と定め岩貞浩に貸し付けた金一〇〇〇万円の請求債権について、昭和五九年八月一七日岩貞浩死亡に基づく相続により抗告人らが債務を承継したというものである。

2、抗告人らは岩貞浩死亡の昭和五九年八月一五日から三ケ月以内である昭和五九年一〇月三日東京家庭裁判所に相続放棄の申請をし、右申述は、いずれも昭和五九年一〇月一九日受理されたから、抗告人らは岩貞浩の債務を相続承継していない。

3、よつて、抗告人らは、本件債務名義である東京法務局所属公証人家弓吉巳作成昭和五八年第弐〇四六号金銭消費貸借公正証書の執行力ある正本の執行力の排除を求めて、請求異議(執行文付与に対する異議)の訴を提起し、(東京地方裁判所昭和五九年(ワ)第一二〇四九号事件、同庁第三〇民事部に係属)かつ、本件添付命令の存在を知つて、本日直ちに、右債務名義に対し、強制執行停止決定の申請をした。

4、停止決定あり次第追完する。

三、本件差押転付に係る金銭債権について、前述転付命令(昭和五九年一〇月一五日)以前である昭和五九年一〇月二日、東京地方裁判所民事第九部において債権者株式会社東京相互銀行、債務者抗告人両名、第三債務者住友生命保険相互会社とする債権仮差押決定(同庁昭和五九年(ヨ)第七〇四六号)があり、同決定は昭和五九年一〇月三日第三債務者に送達されている。

右の外、昭和五九年九月一日、東京地方裁判所民事第九部は、債権者被抗告人、債務者抗告人両名、第三債務者住友生命保険相互会社とする債権仮差押決定(同庁昭和五九年(ヨ)第六四二〇号)があり、同決定は昭和五九年九月三日第三債務者に送達されている。

よつて、本件転付命令は民事執行法一五九条三号により効力がない。

四、よつて、本抗告に及びます。

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